ブーム再燃!美術ファンの間で現在注目の「新版画」ってどんなの?

新宿SOMPO美術館で展覧会を開催中の川瀬巴水を中心に、大正・昭和期の浮世絵「新版画」がブームとなっています。

木版画なので基本的な作り方は江戸時代の浮世絵と似ていますが、西洋画の要素を取り入れたり、また時代が進んで木版画技術がさらに向上し、とっても芸術的で綺麗なんです!

「この記事では、新版画って何?」と初めて聞く方にも魅力が伝わるように紹介していきたいと思います!

新版画作品集―なつかしい風景への旅

西山純子

東京美術 (2018/3/2)

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新版画ってなに?

新版画とは、大正・昭和期にかけて製作された木版画です。

大正期になると、石版画や写真など新しい印刷技術が生まれ、浮世絵は廃れていきました。

そんな中、版元・渡邊庄三郎は木版画の芸術性に目を向け、浮世絵は新しいジャンル「新版画」として生まれ変わりました。

有名な絵師には川瀬巴水、吉田博、笠松紫浪や、伊藤深水、小原古邨などが挙げられます。

さらに詳しく

江戸時代に流行した浮世絵は、明治27年(1894年)の日清戦争を描いた戦争絵の一時的なブームを最後に、明治30年代頃から、木版よりも安くて早い石版画、写真、新聞、雑誌、絵葉書などに押され、次第に衰退していきました。明治40年頃になると、もうほとんど見かけなくなってしまったそうです。

そんな中、版元の渡邊庄三郎は浮世絵の衰退を憂いて、同時代の画家の絵を下絵に、彫師と摺師の協力を経て木版画化を試みました。

基本的な作り方は浮世絵と変わらないものの、電柱や車など当時の情景を描いたり、美人画にしても現代的な装いだったり、洋画の要素を取り入れたり、木版画の新しい可能性を積極的に追求していきました。

新版画の魅力は、浮世絵の伝統に最新の題材や技法を合わせた心地よいアンバランスさだと思います。

「古いものと新しいものの融合」っていつの時代も惹かれるじゃないですか。クリームあんみつや抹茶パフェ、好きでしょう。

伝統的な浮世絵の技術を活かしつつ新しさを取り入れ、当時の風景やファッション、さらには洋画をもとにした表現や当時最新の技術やインクの色など、浮世絵の芸術性を高めた新版画は人気を博しました。

大震災以降には、土井版画店、いせ辰、加藤版画店など多くの新興の版元が現れました。

新版画を作った人々

ここでは新版画を作った人々を紹介します。著作権の関係で紹介できない方も多いのですが、その方たちはぜひ検索してみてください!

川瀬巴水 

新版画といえばこの人!なブームの火付け役かもしれません。

美しさと同時に生活感や儚さも感じられる、思わず感情移入してしまう風景画が特徴です。

新宿SOMPO美術館にて2021年12月26日まで展覧会を開催しているので、ぜひ見に行ってみてください。

川瀬巴水 旅と郷愁の風景展 SOMPO美術館

川瀬巴水の新版画の凄さは、表現したい世界を目指して、版元の渡邊庄三郎とともに常に新しい挑戦をしていったことです。時には版木をわざと傷つけて、雪や雨のリアルな表現を追求することもあったそうです。

また、巴水の新版画は、色数が多いことはもちろん、まるで絵画のような深みのある色やグラデーションが特徴です。なんと、巴水の新版画の摺りの数は平均して35くらいであったそうです。同じ箇所に微妙に異なる色味を重ねてすることで、奥行きや深みを出しています。天保期の刷りの回数は7〜8回であったそうなので、メディアや娯楽としてよりも芸術品としての木版画のあり方が伺えます。

もっと知りたい川瀬巴水と新版画 (アート・ビギナーズ・コレクション)

滝沢恭司

東京美術 (2021/6/17)

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吉田博

大正9(1920)年に版元の渡辺庄三郎と出会い、渡辺版画店から木版画の出版を開始しました。

もともと西洋画を学び、度重なる海外経験を活かして、西洋画の写実性を取り入れた新しい木版画を作るための研究を重ねました。

ふんわりしたパステルカラーの作品や、太陽の光の感じが伝わってくる作品が多いです。

「東京拾二題 亀戸神社」 1927年(昭和2年)

橋口五葉

日本画家の橋口五葉も大正4年より渡邊庄三郎の新版画運動に参加し、渡辺版画店より美人画を制作しています。

日本画と新版画のほか、夏目漱石や森鴎外といった人気作家の小説の表紙など、イラストやデザイナー業も手掛けました。

こちらは代表作「髪梳ける女」です。

「髪梳ける女」 木版 紙、大正9年(1920年)

初代Macのディスプレイにも登場したので、見たことのある方もいるかもしれません。こちらはSOMPO美術館でも見ることができました。

江戸後期の浮世絵師・東洲斎写楽に倣って、背景は雲母を使った雲母(きら)刷りをしています。

しかし、この作品の最大の見どころは髪です。

黒々としたツヤやボリューム感、ウェーブの感じがよく出ています。細い髪の線は江戸時代の技法「毛彫り」によって表現されています。毛彫りについて詳しくは以下の記事の第3章にて紹介しています。

小原古邨

新版画で多かったジャンルは風景画ですが、小原古邨は花鳥画、身の回りの自然や生物など、小さな命に目を向けました。

筆のかすれやにじみなど日本画の柔らかさを木版画で再現した、優しい世界を描く絵師さんです。

古邨は海外輸出用の作品を描いていたので、海外のファンは多いものの日本ではあまり知られていなかったようですが、最近ではじわじわブームがきているようです。

私も大好きな絵師さんなので、また別の機会にも紹介したいと思っております。

猫と金魚 (1931年)

小原古邨作品集

小池満紀子

東京美術 (2021/5/14)

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まとめ

今回はブームとなっている、新版画について語らせていただきました。

まだ北斎や若冲のように定番!とまではいきませんが、これからどんどん人気が高まっていくと思います。

新宿SOMPO

美術館の川瀬巴水展も、行けそうな方はぜひ行ってみてください!

新版画作品集―なつかしい風景への旅

西山純子

東京美術 (2018/3/2)

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