「鬼」を描いた日本画・浮世絵

鬼は昔から身近な題材で、日本画・浮世絵の世界にもたくさん登場します。

ここでは、鬼を描いた作品を時代ごとに見ていきたいと思います。

鬼とは何なのか

妖怪の一種です、と言って仕舞えばそれまでですが、少し詳しく見ていきましょう。

日本画の題材としての鬼は恐ろしいものや非道徳的なものの象徴で、特に定まった姿はなく、どちらかというと概念に近い印象を受けます。

現代の鬼は角があり、金棒を持っているイメージですが、そうした姿が描かれるようになったのはのは江戸時代以降で、それまではさまざまな形をしていたようです。

ということで、日本画に登場する鬼たちを時代順に見ていきたいと思います。

《地獄草子》に描かれた獄卒たち 平安時代

平安時代の絵巻物「地獄草子」に登場する鬼です。

獄卒(ごくそつ)は地獄にいる下っ端の鬼です。

地獄に落ちた罪人たちに直接手を下す仕事をしています。

これは罪人たちを臼ですり潰すシーンですが、なぜだか楽しそうです。

《百鬼夜行絵巻》土佐光信(部分)室町時代

室町時代に描かれた唯一の鬼です。

さまざまな形で描かれており、草鞋や傘など日用品に似た付喪神のような妖怪もいます。

人気の謎妖怪・赤へるもいます。

《雪山童子図》(せっせんどうじず)曽我蕭白(1764年)

ジャータカという釈迦の前世譚を描いたもので、前世の釈迦が、実はインドラ神の化身である恐ろしい鬼と出会う場面です。

赤と青、可愛らしい子どもと恐ろしい鬼、と相対する要素がいっぱいです。(恐らく)月の光に照らされる釈迦と、影の上に座る鬼もその一つかもしれません。

鬼の角や爪の部分は、まるで現代のイラストにも通じるような描写がなされています。

《大江山酒呑童子》歌川国芳

大江山酒呑童子

元々は京都に伝わる伝説ですが、浮世絵や能、歌舞伎の題材にもなった人気の鬼です。

酒呑童子は京都の大江山に棲む鬼のボスです。多くの鬼の配下を従え悪行の限りを尽くしていました。

そこで、主人公の源頼光は仲間とともに酒呑童子を倒しに行きます。

首を落とされ、倒されてしまいます。

後ろで首を切ろうとしているのが源頼光です。

《羅城門渡辺綱鬼腕斬之図》月岡芳年

月岡芳年は、幕末〜明治にかけての浮世絵師です。歌川国芳の弟子でもありました。

能にも出てくる羅生門の鬼退治です。

源頼光の配下の一人、渡邊綱(わたなべのつな)が、鬼が現れるとされる羅生門に一人で赴くシーンです。

すると強風、雷鳴とともに鬼が現れ、襲いかかってきた鬼の腕を切り落としました。

鬼は「時節を待ちて、取り返すべし」と叫んで消えていったそうです。

上側拡大図

下側拡大図

腕を取り返しにきた鬼《新形三十六怪撰 老婆鬼腕を持ち去る図》月岡芳年

平家物語剣の巻のワンシーンで、綱の伯母に化けた鬼が腕を取り返し消え去ったそうです。

平家物語では、綱が鬼に出会うのは一条戻橋となっています。能では平家物語をもとに、舞台を羅生門に変えて創作されたそうです。

《百鬼夜行図屏風》河鍋暁斎

河鍋暁斎も、明治期の日本画家・浮世絵師です。

さまざまなかたちの妖怪や鬼が可愛らしく描かれています。

百鬼夜行は室町時代から描かれ続けてきた古典的な題材です。

平安や室町時代には、百鬼夜行に出会うと死んでしまうという話もあったそうですが、むしろ会って見たくなるような、楽しそうな行進です。

《月耕随筆 鬼ヶ島》尾形月耕

尾形月耕(1859〜1920)は明治〜大正期の浮世絵師です。

こちらは「月光随筆」という全84枚の連作シリーズの1作です。

「鬼ヶ島」のタイトル通り、桃太郎が題材ですが、これから桃太郎たちがやってくる様子を伺う、鬼の目線で描かれています。

最近ブームの、悪役を主人公に描くヴィラン作品に通じるものがあります。