【歌川国貞】粋でいなせな江戸の役者絵!
この記事では、当時江戸で1番人気のあった浮世絵師・歌川国貞について紹介します。
国貞というと、江戸で1番の売れっ子絵師で、その人気は北斎や歌川広重を上回るほどでした。
しかし、現代ではあまり、広く一般に知られていないように思います。
そこで!
この記事では、初めて見た人にも国貞の魅力を伝えたい!というテーマでいきたいと思います。
歌川国貞ってどんな人?
歌川国貞(1786〜1865)は幕末の浮世絵師で、江戸っ子好みの粋でいなせな人物画を得意としました。
今ではあまり知られていませんが、江戸時代では北斎や広重を上回る人気でした。
ちなみに、北斎は1760年、広重は1797年生まれなので国貞は北斎の26歳下、広重の11歳上となります。
また、国貞は師匠から襲名し、歌川豊国を名乗っていたこともあります。
検索する際は、国貞のほか「三代目歌川豊国」とか「三代豊国」でも試してみてください。
魅力①:歌舞伎役者が超かっこいい!
役者絵は国貞が最も得意としていたジャンルで、顔もポーズも色もデザインも全てがかっこいいです。
国貞は特に、当時流行の歌舞伎役者たちを超かっこよく描くので、江戸っ子たちはこぞって買い集めました。
国貞の作品は、大胆なデザインと色遣いが特徴です。
現代人からしても斬新で「本当に150年前の絵?!」と驚く作品を紹介していきます。
御あつらへ三色弁慶
当時人気の、若手歌舞伎役者たちを描いた一枚です。
華やかな3色の背景を背に、ポーズを決める役者たち。現代の私たちが見ても、斬新でかっこいいデザインです。
背景の柄は、弁慶縞と言います。青・赤・黒の3色グラデーションにすることでいっそう華やかになり、若手役者たちのエネルギッシュさを更に引き立てています。
知らざあ言って聞かせやしょう
すごく有名な歌舞伎「白浪五人男(しらなみごにんおとこ)」を題材にしていて、タイトルは「稲瀬川勢揃いの場」と言います。
この絵の凄いところは、構図と色遣いです。傘の持ち方やポーズにも個性があってかっこいいし、衣装デザインも素敵です。
そして赤の使い方がとても上手!絵の良いアクセントになっています。
「問われて名乗るもおこがましいがぁ」も有名なセリフです。
絶景かな、絶景かな
「東海道五十三次之内 京 石川五右衛門」という作品です。
歌舞伎演目「楼門五三桐(さんもんごさんのきり)」の中で、大盗賊・石川五右衛門は京都南禅寺三門から満開の桜を見て「絶景かな、絶景かな」と言う有名なシーンがあります。
この絵も、京都の風景を背景に、タイトルは桜の花で囲まれています。
見立十人豊国一世一代屋久ら水滸伝
水滸伝のキャラクターを、当時人気の歌舞伎役者の顔で描いています。
水滸伝は19世紀の日本でかなりのブームになっていて、歌舞伎の演目に取り入れられました。今でいう「ドラマ化」です。
一人一人違う、刺青の模様が特徴です。顔つきにも個性があって、それぞれの役者さんがどんな顔をしていたのか想像ができるくらいです。
魅力②:人物表現が美しい!
国貞の作品に出てくる人々は、男女共に面長で鼻筋の通った涼しい顔立ちと、スタイルの良さやかっこいいポージングが特徴です。着ているものもお洒落で、当時の江戸っ子たちの憧れでした。
細かい部分では、小道具や背景にもこだわりが感じられるので、見ていてすごく楽しいです。
よし町(ちょう)
三味線を立て、懐紙を咥えたポージングは思わず「かっこいい〜」と感嘆してしまいます。
黒と紫の着物の内側に、赤い色がチラッと見えるのもおしゃれです。
東海道五十三次の内 戸塚駅 早野勘平(役者絵)
こちらは役者絵で、仮名手本忠臣蔵の登場人物・早野勘平を演じる八代目市川団十郎を描いています。
八代目団十郎は、面長で美形の二枚目役者です。容姿の美しさと上品さに愛嬌も備わり、爆発的な人気を誇りました。
黒地の着物に赤と水色のアクセントが、「色気はこぼれる程あれどもいやみでなく、すまして居れども愛嬌があり」と言われた八代目団十郎にピッタリです。
戻駕籠櫓三真意
夜に駆ける3人の駕籠舁きたちです。
3人の身体には、花魁に桜、牡丹、そして龍の刺青が彫られています。
江戸時代後半には、小説「水滸伝」の影響でファッションとしての刺青がブームになりました。
鳶職、飛脚、駕籠舁きなど、肌を出す機会の多い職業では特に人気でした。
ちなみに、3名とも人気の歌舞伎役者をモデルにしていますが、役者の場合は実際の刺青ではなく、役柄上の演出だったり、絵をかっこよく仕上げるための演出だったそうです。
魅力③:超絶技巧の合わせ技!国貞を支えた浮世絵職人
浮世絵は版画なので、絵師の描いた下絵を元に、彫師、摺師といった職人たちで協力して完成させます。
一流絵師の描く世界を壊さず表現するには、一流の職人技術も必要なのです。
今度は、国貞の絵を担当した職人さんの凄さがよく分かる作品を紹介します。
東海道五十三次之内 白須賀 猫塚
化け猫、獣人を描いたものです。
この絵の凄いところは、ふわふわの毛です。
下絵の段階では髪など細かい線は書かれていないので、細部の彫りは彫師次第になります。
中でも1番難しいのは髪の毛の表現=毛割り(けわり)で、1mmの内に何本もの細い毛の線を彫る、0.1mm単位の作業になります。
そのため彫師の中でも最も熟練した者が毛割りを担当しましたが、この絵は細くて長い毛が大量に彫られているので、ただでさえ難しい毛割の中でも特に高い技術が求められました。
その甲斐あって、発売当初から世間の評判も上々でした。
担当した彫師は「彫巳の」こと小泉巳之吉で、絵の右側に名前も入っています。
浮世絵に彫師の名前が入るのは珍しいので、本当に凄いことです。
魅力④:江戸庶民の生活をテーマ
ここまで豪華で派手な作品を紹介してきましたが、国貞は江戸庶民の暮らしをテーマにした作品も多く手がけています。
そうした親しみやすさも、国貞人気の理由の一つかも知れません。
浅草寺桜奉納花盛ノ図
浅草寺でのお花見風景を描いた作品です。
夜桜を背景に、色鮮やかな着物に身を包んだ女性たちでとっても華やかな作品です。
一つ一つ丁寧に描かれた桜の花や、着物や帯の着こなしなど、細部にまでこだわりが感じられます。
右の女性が着ているのは、鬼滅の刃でもおなじみ麻の葉模様です。江戸時代に女性の間で流行し、定番化していったそうです。
中央の女性が着ているチェック柄は「弁慶縞」と言って、元々は男性向けでしたが、次第に女性の間でも流行していきました。
遠くでは夜店の賑わいが感じられ、とても楽しげな作品です。
江戸自慢三十六興 両こく大花火
歌川広重との合作です。
両国花火大会(=隅田川花火大会)を見に来た女性たちを描いた、涼しげな絵です。
着物に着目すると、大振りの朝顔の模様がとてもおしゃれです。
右の女性が着ているのは鹿子模様です。
遠くに見える花火や、提灯の赤がアクセントになっています。やっぱり国貞は赤を使うのが上手です。
四季花くらべの内 秋
秋の花が所狭しと並ぶ、夜の縁日の一場面です。
園芸は18世紀後半ごろから庶民にも広まり、植木屋は縁日に欠かせない露天の一つとなりました。
絵の中の3人は、全員、当時人気の歌舞伎役者をモデルにしています。
東都両国橋川開繁栄図
隅田川の花火大会です。
梅雨が明けて川開きが行われると、空には花火が上がり、両国橋付近は納涼船で賑わいました。
夕涼みに来た人を乗せる船のほか、スイカや軽食の販売や、三味線を演奏する船もあります。
みんなわいわい楽しそうですが、右上の男性3人は、仕事中なのかつまらなさそうにしています。
両国橋の上も人で賑わっていたり、奥の船にも威勢のいい船頭さんや扇子を持った上品な紳士、お酒を楽しむ人などの姿が見られ、細かいところも見れば見るほど面白い絵です。
参考文献
書籍
『歌川国貞 これぞ江戸の粋』日野原健司 東京美術(2016/3/30)
Web
スミソニアン博物館
『浮世絵版画の彫師のスゴ技を計測してみた。』太田記念美術館note