【読書感想】宮尾登美子「序の舞」(書評)
日本画ファンとしてはぜひ読んでおきたいと思っていた本をようやく読むことができました。
宮尾登美子先生による、明治〜昭和期の女性日本画家、上村松園をモデルにした時代小説「序の舞」を読んだ感想です。
文章が綺麗!
まず驚いたのが、文章があまりにも綺麗なことです。
一言でいうと「真綿で包むように優しく、しなやかながら視点の鋭さ、芯の強さを感じさせる文章」でした。
分厚くボリュームのある本ですが、この文章のおかげでのめり込んで読むことができます。
主人公のモデルは上村松園ですが、名前を一部変え「島村松翠」、最初の師匠・鈴木松年は「高木松溪」、2人目の師匠・幸野楳嶺は「福野魁嶺」、3人目の師匠・竹内栖鳳は「西内太鳳」といったふうに名前を変えています。
上村松園の考え方を文章で体現
本のモデル、上村松園は自身の絵に関して「青眉抄」の中で
「一点の卑俗なところもなく、清澄な感じのする香り高い珠玉のような絵こそ、私の念願するところのものである。」
と、また更に
「その絵をみてゐると邪念の起らない、またよこしまな心を持つてゐる人でも、その絵に感化されて邪念が清められる……といつた絵こそ私の願ふところのものである。」
と語っています。
小説「序の舞」では松園のこの考えを文章で体現しています。
まさに「清澄な感じのする香り高い」とても美しい文章でした。
時代を先駆けた女性画家を取り巻く酷な環境、昼ドラのような人間関係、次々襲いかかる試練があまりにも可哀想すぎて、だんだん読むのが辛くなってきます。
また小説に登場する男性陣の悪いこと悪いこと…。
これを書いたのが宮尾登美子先生でなかったら、読むのが途中で嫌になっていたかもしれません。
浅ましささえも美しく
松園は江戸時代の浮世絵から絵の題材を持ってくることもありました。その中には着物のはだけや肌の露出の表現もあります。
しかし松園は「清澄な感じのする香り高い」の信念の通り、着物のはだけや肌の露出があっても、美しすぎて卑俗さを微塵も感じさせない画に仕上げてしまいます。
これは松園の、大正期の画壇という男性社会への挑戦だったのではないかと思います。
江戸時代、主に男性に向けて描かれた題材を、性愛ではなく、気品を落とさない色気に変えて描くことにより、何ものにも犯されない、女性の気品や強さを描きたかったのではないかと。
小説「序の舞」作中には男女の関わりを描いた表現も登場します。人間の浅ましさを感じる部分もありますが、それさえも美しさの一つになってしまいます。
女性には特に読んで欲しいなと思う本!
女性の強さを描いた本なので、女性の方は特に共感できる部分や憧れる部分もあるかと思います!
主人公の松翠はかなりダイナミックな生き方をしているので、なかなか同じ経験や感情を持つことはないかもしれませんが、それでも共感できる部分は多いはずです。
男性は…作中に登場する男性陣が悪いやつばっかりなので、あんまり良い気分じゃないかもしれません。笑
それでも歴史小説、大河小説として楽しめるので良いかなと思います!
読んでよかった!