伊藤若冲の「動植綵絵」がすごい!
「動植綵絵(どうしょくさいえ)」と言ったら、日本を代表する天才画家・伊藤若冲(いとう じゃくちゅう [1716~1800] )の代表作です!
動物、植物を題材とし、フルカラーの着色を施した30幅にわたる大作で、約10年間かけて制作されました。(🌾絵画の数え方は、掛け軸では「幅(ふく、ぷく)」を使うことが多いです)
今回はそんな「動植綵絵」30幅の中から、特に好きな作品、有名な作品を紹介していきます。
「動植綵絵」ってどんな作品?
「動植綵絵」の文字通りの意味は「動物・植物を描いたカラーの絵」となります。
1757〜1766年頃、若冲が40代前半〜50歳のほぼ10年間をかけて制作されました。
30幅にわたる連作の花鳥画で、「釈迦三尊像」とともに若冲の故郷・京都の相国寺に寄進しました。
1765年、24幅を寄進した際の寄進状(宮内庁三の丸尚蔵(しょうぞう)館)にはこう記されています(現代語訳)。
私は常日頃から絵画に心力を尽くし、常に優れた草木を描き、鳥や虫の形状を描き尽くしたいと望んでいます。幅広い題材を多く集め、一家の技を成すに至りました。
また、かつて張思恭(ちょうしきょう)の描く釈迦文殊普賢像(しゃかもんじゅふげんぞう)を見たところ、他に比べるものが無いほどの巧妙さに、自分も模写をしたいと思いました。
そしてついに三尊三幅を写し、動植綵絵二十四幅を作りました。
世間の評価を得たいなど軽薄な志ではありません。すべて相国寺に喜んで寄進し、寺の荘厳具(しょうごんぐ)の助けとなって永久に伝わればと存じます。
私自身もなきがらをこの地に埋めたいと思い、謹んでいささかの費用を投じ、香火(焼香の火)の縁を結びたいと思います。
ともにお納めくださいますように伏して願います。
川井桂山「大橘集(かわいけいざん・だいきつしゅう)」によれば、若冲は、「動植綵絵」を制作しながら「自分の絵の価値がわかる人を千年待つ」と言ったそうです。
売れるため、生活のためではなく、「自身の絵を後世まで永久に残したい」との思いを注ぎ込んだ、畢生の大作です。
春〜初夏を彩る、蝶と芍薬:芍薬群蝶図
30幅の中で最初の作品と推測されています。
咲き誇る色とりどりの芍薬と、飛び交うさまざまな種類の蝶。
動植綵絵は、絹の布地に墨や岩絵具を使って描かれています。
表面だけではなく、裏面からも色を塗ることで、絶妙な色合いに成功しています。
上の2匹の蝶には裏彩色が施されていないため、他の蝶に比べて透明感があります。
画面右上の「出新意於法度之中」の印文には、大作の制作に踏み込む強い意志が表れています。
赤と青のコントラストが綺麗:紫陽花双鶏図
紫陽花の前で戯れる、鶏の雌雄を描いた作品。若冲といえばこの絵を思い浮かべる人も多いと思います。
鶏冠の赤が紫陽花の青に生えて綺麗です。
この頃の日本画は輪郭線を描くのが一般的ですが、若冲の絵は写実性が高く、ほとんど輪郭線がないものも多いです。紫陽花の葉や、鶏の羽の重なりは影で表現しています。
絵の具は当時の最高級品を使っているため退色が少なく、今でもあざやかな色を見ることができます。
首の動きが独特!:芙蓉双鶏図
こちらも花と雌雄の鶏を題材とした作品です。
夏の日差しを浴びて、芙蓉も鳥たちも楽しそうな様子が描かれています。
面白いのは鶏のポーズ。
雄は片足立ちで頭を下にし、雌は首をくにゃらせています。
それでいて画面全体でバランスが取れているので、一体どうしてこんな構図が思いついたのか興味深いです。
水の中の不思議な世界:蓮池遊魚図
睡蓮に葦、9匹の鮎と、1番下はオイカワが描かれています。水の中の世界を描いています。
面白いのは、私たちはこの光景を上から見下ろしているのか、水中で見ているのか、見る箇所によって視点が移動するところです。
1枚の絵の中に複数の視点が混在する、不思議な空間です。
とろりと溶ける雪!:雪中錦鶏図
雪の中、空を見上げる錦鶏(きんけい)のつがいが描かれています。
蜂蜜のようにとろりと粘着質に描かれた溶け掛けの雪や、画面左下の雪に空いた穴が面白いです。
また、葉の上に雪を重ねるのではなく、雪の部分と葉の部分は塗り分けられていて、下絵の段階から計算された構図だったそうです。
一度見たら忘れないインパクト:群鶏図
続いて、13羽の鶏を描いた「群鶏図」です。これも有名な絵なので、見たことがある方もいるのではないでしょうか?
渦巻くような羽の模様、真っ赤なトサカ、何かを凝視するような目つき、鶏同士の鮮やかなコントラストが、生々しいほどのリアルさを感じさせます。
禍々しいほどに写実的で、だけれども色の鮮やかさや強い自我を持ったような鶏の表情は現実以上に美しく、不思議な絵です。一度見たら忘れられません。
彩色にもこだわっていて、絵の中の全ての鶏に裏彩色がなされています。
小噺:若冲と鶏
若冲は庭に数十羽の鶏を飼い、よく観察し、忠実に描く努力を続けていたそうです。花鳥画の題材に身近な鶏を選ぶのは斬新かつリスキーなアイディアでしたが、真摯な模写と写生の積み重ねで得た若冲の技術により未知の表現を完成させました。
松、桐、鳳凰、めでたいものづくし:老松白鳳図
吉祥のシンボルで格式高いとされる松、桐、鳳凰を組み合わせた豪華な作品です。
鳳凰は伝説上の鳥ですが、桐の木に止まると言われています。
白い羽の輝きは、裏地に黄土色と白(胡粉)で彩色し、表面に胡粉で緻密な線や模様を描いて表現しているのだそうです。
他の絵と違って空想上の動物をテーマにしているので、流麗にゆらめく羽や人間のような目が特徴的です。
これぞ若冲ワールド炸裂!と、思わず引き込まれてしまう作品です。
穏やかな秋の風景、紅葉とオオルリ:紅葉小禽図
最後はこちらの作品です。動植綵絵シリーズの中でも最後の方に制作された作品と考えられています。
赤く色づいた紅葉に、2羽のオオルリが遊んでいるのか、のんびりしているのか、どちらにしても穏やかな秋の光景を感じられます。
陽光の当たり方的に昼間でしょうか。葉によっては、少し透けているものもあります。
紅葉の葉は、みなほぼ同じ形をしています。
この絵を制作したとされるのが、1766年頃。ちょうど琳派が流行っていた時期です。琳派の特徴の一つに「パターンの繰り返し」があるので、もしかしたら琳派の要素も取り入れたのかものしれません。
しかし、同じ形に見えますが、近くで見ると、葉の塗り方が1枚1枚違っていて、裏彩色もされ、一つとして同じ色の葉はないそうです。
動植綵絵
動植綵絵は、細部まで緻密に描かれたこだわりの作品です。
この記事を書くにあたって参考にした、動植綵絵の魅力が伝わってくる画集を紹介いたします。
2016年の、若冲生誕300周年記念で作られた本です。部分ですが動植綵絵のアップの写真も載っています。
動植綵絵の全30作品それぞれの解説が書かれていて、一つ一つ読んでいくのが面白かったです。
晩年の水墨画も載っていて、彩色との違いや、墨一色でも残る面影を見ることができます。
こちらも2016年の若冲生誕300周年記念の際に作られた本です。
タイトル通り、若冲の描いた動物シリーズが載っています。
動植綵絵のアップの写真がたくさん載っていて、細かい部分の筆使いや彩色を見られます。大型本で値段も少し張りますが、全ページフルカラーで細かい解説もあり、とても見応えがあります。
動植綵絵の全30作品それぞれの解説が書かれていて、見応えがあります。
晩年の水墨画も載っていて、彩色との違いや、墨一色でも残る面影を見ることができます。